冬木市・・・ゼルレッチから渡された手紙によればこの地には大聖杯・・・『天の杯』と呼ばれる第三魔法の大儀礼が今からおよそ二百年前に設立されて以来独特の形で第三魔法の実行の為『聖杯戦争』が執り行われているとの事らしい。

「師匠の話だとここには古くからの弟子と一年位前からの弟子がいるんだよな・・・」

冬木町の新都に降り立った志貴はそう言うと、歩き出す。

目指すのは深山町。

二『錬剣師』

「えっと・・・住所が・・・深山町・・・・・・何処だここ?」

志貴は見事に迷っていた。

橋を渡り、新都から深山町に出たまでは良かったが、その後どういけば良いのかわからず商店街でうろうろしていたが、空腹を覚えた為、一先ず外食をと思い、ある中華料理屋に入った。

その店の名は・・・『泰山』と書いてあった。







「ふう・・・食べた食べた」

志貴は案外満足しながら店を後にした。

「しかし・・・あの麻婆豆腐、少し辛かったな・・・」

ここに住んでいる人間は決して口にせず完食をするのは郊外にある教会の神父のみと言われたそれを志貴は完食した。

それも『あの激辛』を『少し辛かった』とまで言い切って・・・

しかし、これも全ては『千年城』での食事事情の賜物である。

以前も記述したがエレイシアが『埋葬機関』に編入される前までは彼女が事実上『千年城』の厨房を支配していた。

むろんの事ながらその期間は一日一食必ずカレー、酷い時には三食カレーと言う時もあった。

おまけに時間が経つにつれ、辛さを徐々に引き上げていき、遂にはこの麻婆豆腐を超える超激辛カレーを食卓に出した事もあった。

さすがにその時には一口食べるなり全員火を噴き失神。

その後、エレイシアは全員(主に青子・コーバック・アルクェイド)から筆舌に尽くしがたい目にあい、それ以降辛さを引き上げる事は無くなったが、それでも麻婆豆腐に匹敵する辛さを出し続けるとなった訳であった。

そんな志貴が辛さに対して耐性(感覚が鈍化したとも言う)がつかない訳が無かった。

「さて、急いで探さないとな・・・」

そう言いながら志貴は再び歩き始めた。







ようやく志貴がその目的の家に到着したのはそれから三時間後の事だった。

道順さえ覚えていればそれほど入り組んでおらず三十分から一時間あれば到着した筈だったのだが、交差点で間違えた道に入ってしまい寺に着くは、洋館ばかり建った場所に出てしまうはで相当遅れてしまったのだ。

「やれやれ、やっと着いたか・・・住所も良いな」

その日本建築を確認すると呼び鈴を押す。

機械的なインターホンの音から暫くして、

「はい、どちら様でしょうか?」

声と共に赤毛の少年が出て来た。

年は志貴と同じ、若しくは一つか二つ下と言った位だろうか。

その視線は強さと共に愚直さをも秘めていた。

「衛宮士郎さんですか?」

「はい、俺ですが・・・」

「魔法使いからのお届け物です」

「えっ?・・・ああゼルレッチ老からですか?ありがとうございます。えーと・・・」

「ああ、志貴です。七夜志貴と言います。俺も師匠の一応弟子です」

「そうですか、どうも改めまして衛宮士郎です」

そう言って士郎と志貴は握手をした。

衛宮士郎・・・後に『錬剣師』と呼ばれる剣の王・・・との出会いだった。

そして、七夜志貴にとっては後に生涯最高の盟友となり、数年後世界中で巻き起こる動乱では共に戦い抜き、背中を預けるに足る事になる二人の出会いだった。







士郎に荷物を渡せばそれで用は終わりなのだが、この家の温かさに妙に惹かれた志貴は士郎の招きもありお邪魔する事になった。

「志貴、晩飯は食ったのか?」

「ああ、商店街の中華料理屋で軽く食べてきた。ただ少し小腹が空いたかな?」

互いに気の許せる所があったのか、砕けたざっくばらんな会話を取り始める。

「じゃあ、軽めの物でも作る・・・!!!お、おい!!志貴今中華料理屋って言わなかったか?」

志貴の返答に一瞬にして顔を蒼ざめさせる士郎。

「ああ、そう言ったがどうかしたのか?」

「ま、まさか・・・『泰山』なんて言うんじゃないだろうな・・・」

「ああ、確かそんな店だったな」

「!!し、志貴体調は大丈夫か!直ぐに医者行くか?」

「どうしたんだ?士郎、確かにあそこの麻婆豆腐は少し辛かったけど、結構いけたぞ」

「・・・・」

「どうした?士郎?おーい」

硬直した士郎に志貴が呼びかける。

「・・・はっ!わ、悪い・・・思わず硬直しちまった・・・」

冷や汗をかいている士郎に志貴は首を傾げるが話題を変える。

「そう言えば士郎、師匠からは何て?」

志貴の問い掛けに士郎は正気を取り戻す。

「ああ、えっと・・・後二年から四年の間に聖杯戦争が始まるからマスターになる、ならないに関わらずそれに向けて準備をしておけとよ」

「聖杯戦争?そう言えばここの大聖杯は師匠が創ったんだよな?」

「ああ、ゼルレッチ老と遠坂・アインツベルン・そしてマキリ・・・今は間桐か・・・この三家が第三魔法の大儀礼に使う物を創り上げたって言っていたな」

「しかし、準備って何をしろと?」

そう志貴が尋ねると士郎は封筒から手紙となにやら銀細工のブレスレットと黒のグローブを取り出す。

「この手紙によると、俺の魔術回路の内二十五を封印して更にこのグローブで拘束した上で、それまでの間余剰の魔力を魔術回路内と、一緒に入れたこのブレスレットに溜め込めってさ。後俺は投影と強化しか出来ないから、それも磨き上げろとも書いてある・・・それと・・・??何?大聖杯を叩き壊せ?

「へっ?どういうこった?なんで壊せって」

「あっ、この理由も書いてある。何々・・・大聖杯に気に食わない奴が住み着いているから壊せだって・・・」

「は、はははは・・・師匠らしい」

「まったくだ・・・さすがゼルレッチ老・・・はははは」

志貴と士郎は苦笑を浮かべる。

と、そこに、引き戸が開かれる音がした。

「誰か着たか?」

「ああ、きっと・・・」

ゼルレッチからの手紙や諸々を片付けながら士郎が言い終わる前に

「たっだいま〜士郎」

「ああ、お帰り藤ねえ」

歳にして二十代の中間と言った所か、ショートカットが似合う活発な女性が文字通り飛び込んできた。

「士郎〜ご飯は〜」

「はいはい、今作っているから少し待てって」

軽くその女性をいなしてからまた士郎は台所に戻る。

「あれ?君は誰?」

そこでようやく志貴の存在に気付いたのか志貴を見ると不思議そうな顔でそう尋ねる。

「ああ、そいつは親父の遠縁だってさ」

「初めまして七夜志貴と言います」

「へえ、そうなんだ切嗣さんの」

「ああ、それで志貴このぐうたらなのは、俺の後見人をしてくれている人の孫で藤村大河」

「はあ・・・珍しいお名前ですね。大河さんですか?」

「!!ば、ばかっ!!」

志貴が何気無く言った言葉に士郎が青ざめ次の瞬間には

「うがああああああああああああ!!!タイガーと呼ぶなああああああああ!!!!」

何処からとも無く取り出した竹刀片手に、大河は大暴れしていた。







「志貴、藤ねえは名前で呼ばれるとああなるから気をつけとけ」

「ああ、身に沁みて判ったから」

十数分後、しみじみとした口調を交わしながらのんびりと食事をする志貴と士郎の姿があった。

「それにしても美味いな。これ全部士郎が?」

「ああ、家には料理作れる奴が一人もいなかったせいで俺が必然に覚えちまってな」

「し〜ろ〜う〜」

「あっこのお吸い物美味い。良ければ作り方教えてくれないか?」

「ああ、構わないぜ」

「うう〜無視しちゃいや〜」

「所で士郎」

「何だ志貴?」

「あの人まだ出さないのか?」

そう言って志貴が指差す先には、

「うう〜士郎〜お姉ちゃんが悪かったからご飯食べさせてよ〜」

「藤ねえのお仕置きにはこれが一番だって雷画爺さん言っていたぞ」

とこからともなく士郎が取り出した檻の中で強制反省させられていた暴走した虎・・・もとい大河が半べそでしきりに訴えていた。

しかし、士郎の無慈悲ともいえる台詞を耳にすると

「お爺様酷い!!実の孫をなんだと思っているのよーーーー!!」

檻で彷徨する姿はまさしく虎を思わせる。

しかし、そう思っても口には出さない。

また大暴れするだろうから。

「なあ士郎いいのか?あのままで」

「ああ、大丈夫。俺達の食事が終わったら餌はやるさ」

「餌って・・・猛獣じゃないんだから」

「志貴、藤ねえは猛獣より質悪いぞ」

その被害を直接被った志貴は苦笑するより仕方が無かった。







「それにしても彼って切嗣さんの遠縁なのよね〜」

「ああ、もっとも志貴は親父には一度も会っていないらしいけどな・・・はいよおかわり。それで今日は志貴を家に泊めるけど構わないよな?」

「ああ、そうなんだ〜まっ大丈夫かな?今日も遅いし、志貴君しっかりしそうだし」

そして、志貴と士郎の夕食が終わって更に三十分、二人が食後のお茶を飲み終えようやく士郎は大河を檻から解放し夕食を出した。

そんな中での会話である。

その間志貴はといえば里に連絡を取っていた。

その気になれば転移で直ぐに帰れるのだが、何も知らない大河がいる以上迂闊に魔術は使えない。

それにもう一つ理由があった。

実は士郎からある頼み事をされてもいたのだった。

「ああ、母さん?」

『志貴?どうしたの?』

「うん、ちょっと今日は知り合いの所に泊まるから」

『あら?そうなの?せっかく琥珀が気合入れて夕食作ったのに・・・』

言外に真姫は志貴を責めている様だった。

「あう・・・琥珀には『ごめん』って謝っておいて。その代わりお土産お菓子買ってくるから」

『物で釣っちゃ駄目よ志貴』

「は、ははは・・・」

さり気なく母から釘をさされ、それでも最後には『お土産楽しみにしているわよ』と言われて電話を切った。

「士郎」

「終わったのか?」

「ああ、連絡はつけた。あれ、藤村さんは?」

「藤ねえなら今帰った。それじゃ約束通り頼む」

「ああ、何処でやる?」

「蔵が良い。いつもそこで鍛錬は行っているから」

「よし、じゃあ行くか」







蔵に入ると志貴は直ぐに空間封鎖で魔力の漏洩を防ぐ。

何しろこの地には代々管理人を行っている遠坂家がいる。

士郎の話だと彼の養父はこの地にいわば潜伏していたようなもの。

出来れば生粋の魔術師との遭遇は避けたい。

「じゃあ始めるぞ」

「ああ、頼む」

そう言うと、志貴は『七つ夜』は無かったが指を使って印を組み早速呼び出す。

―極鞘・玄武―

それと同時に現れるのは無骨な、装飾など一切無い本当に地味な盾。

しかし、同じ神具以外の武器ではこの盾を砕く事は不可能であろう聖なる盾、水の聖獣玄武の神具『聖盾・玄武』。

「士郎、まずはこれ」

「ああ・・・始める」

そう言うと眼を閉じ士郎はイメージに入る。

「・・・投影・開始(トーレス・オン)」

そんな一小節での詠唱の瞬間、手に魔力が集中し始める。

「・・・」

士郎の身体がぶるぶる震えだす。

やがて、手が光を発し始める。

その光が消えると同時に士郎の手には志貴の手にあるそれと瓜二つな物が出来上がっていた。

「!!凄いじゃないか!!士郎」

しかし、言われた当の本人は首をただ振る。

「いや、だめだ。こんなものただ形だけ同じ最劣悪品。本物とは及び・・・いや、足元のあの字にも及ばないって」

そういって士郎は土蔵の床に軽く叩きつける。

その途端、薄く張った氷よりも容易く、偽物・・・いやそれ以下の物が砕け散る。

「・・・確かに、これだけ脆いとな・・・次に行くか?」

「ああ頼む」

その言葉に頷いた志貴は再度印を組む。

―極鞘・青竜―

その瞬間現れたのは、志貴の身の丈までの柄に二十センチ程の両刃、大地を司り四聖の長をも勤める、青竜の神具『豪槍・青竜』。

「いくぞ・・・投影・開始(トーレス・オン)」







数時間後、魔力をまさしく限界まで消耗し、限度まで投影を行った士郎が志貴に肩を支えられて土蔵から出て来た。

「はあ・・・はあ・・・結局どれも最悪の出来だったな」

「そりゃそうだろ。『神具』を完全に模倣させられたらこっちの立場は無いって。だけど、やっぱりお前、武器・・・それも剣の投影に特化されているな」

『聖盾・玄武』こそ酷い出来だったがその後行った、『豪槍・青竜』・『神剣・朱雀』・『双剣・白虎』の投影はどれも軒並み武器として使用に耐えられる物となった。

(無論本物と比べれば百点中十点の出来だが)

このまま投影に磨きを掛ければ神具の能力すら模倣出来るかもしれない。

「やれやれ・・・魔術師としても半人前、投影も中途半端か・・・これじゃあ俺の目指すものなんて夢のまた夢かな?」

士郎は溜息をつくが志貴が反論する。

「中途半端じゃあるまい。本来神具の投影自体が凄い事なんだしもっと誇って良いんじゃないのか?」

「そんなものか?」

「そんなものだって。そう言えば士郎お前の目指すものってなんなんだ?」

「笑わないか?・・・いや、笑うよな普通」

「なんだよ?いいから言ってみろって。笑わないから」

「そうか・・・俺な・・・『正義の味方』になりたくてな・・・」

「・・・」

「・・・」

暫し沈黙が流れる。

「・・やっぱりおかしいよな。そんな事。俺も判っているんだよ。完璧な『正義の味方』なんている訳無い。子供向けの特撮番組ですら悪者達には悪者達の正義って奴がある。完全な正義も完全な悪も無いなんて事はわかっているんだよ。『正義の味方』なんて言葉だけの幻想なんだって事は・・・でもな・・・」

そんな士郎に志貴は口を挟む。

「それでも士郎お前目指すんだろ?自分が目指す高みに。たとえそれが到達する事が不可能だって判っていても目指すんだろ?」

「ああ、歪で空洞の俺を満たしてくれるたった一つの理想だから、親父が俺に託してくれた物だから・・・何より俺が目指そうと思うものだから・・・だから俺は捨てない、逃げない。一生を掛けてでもこの道を目指す」

「だったらそれで良いんじゃ無いのか?到達点は何であれ、困難を承知の上で目指そうと考えている事は凄い事だぞ。少なくても俺はそう思う」

そうきっぱりと言い切る志貴に士郎はただ一言

「ありがとうな」

そう言った。







翌日、

「ふあああ・・・」

いつもの事で朝早くから眼を覚ました志貴は衛宮邸の離れにある道場に向かった。

そこで身体を動かそうと思ったからだ。

だがそこには先客がいた。

「志貴?朝早いんだな」

「士郎?朝早いんだな」

異口同音に同じ台詞を口にする二人。

「俺は毎朝の日課だからな」

「俺はちょっとした鍛錬で」

「じゃあ二人揃ってするか?」

「それもそうだな二人なら何かと効率良さそうだしな」







「おっはよー!!士郎」

「ああ藤ねえおはよう」

「ああ、た・・・藤村さんおはようございます」

一時間後、ストレッチやトレーニングで汗を流した志貴と士郎が共同で・・・もっとも、メインは士郎で志貴は下ごしらえなどのサブに回っている・・・朝食を作っている所に朝も早くからハイテンションで大河が飛び込んでくる。

「士郎〜朝ご飯は〜??」

「はいはい、今作っているからもうちょっと待て」

「は〜い!!」

その様子を見ていた志貴が士郎に耳打ちをする。

「・・・なあ士郎」

「何だ志貴??」

「藤村さんってお前より年上なんだよな??」

「ああ、信じがたいかも知れんが、あれでも学校の教師までやっている」

「・・・マジでか?」

「俺も時折信じられんが」

「世の中不思議に満ちているんだな・・・」

「いや不思議というよりも不条理だよ」

二人は顔を見合わせて深く溜息をついた。







なんだかんだで賑やかな朝食も終わり、大河が帰ると

「じゃあ士郎俺もそろそろお暇する」

「そうか?もう少しゆっくりしていけば良いだろ?」

「そうしたいけれどな、結構時間もかかるし、それに日帰りを無理言って泊まりにしてもらったから、そろそろ帰らないと、そうだ士郎この近くで美味い菓子屋ないか?」

「う〜んそうだな〜・・・あそこなんかはいいかな?じゃあ志貴、見送りついでに案内するよ」

「悪いだろ?そんなの」

「気にするなって俺がしたいからそうするだけだから」

「そうか・・・じゃあ頼む」

「ああ」







そして士郎の案内でこの近辺で評判のケーキ屋でケーキ各種を買い込んだ志貴は駅ではなく、人気の無い新都中央公園に来ていた。

正直この場所の陰気さには二人とも辟易したが、昼間から人気の無い場所と言えばここか郊外の森しかなかった。

「ありがとうな士郎色々と助かった」

「それは俺の台詞だって。夕べのお前の一言正直嬉しかった。俺も自分の目指す高みを諦めずに目指すよ」

「ああ、頑張れよ士郎。俺も応援してるからな」

その言葉と共に二人は自然に握手をかわす。

「じゃあ士郎また縁が会ったら会おうぜ」

「ああ、志貴また来いよ」

二人は笑い合うと一時の別れをかわし志貴の身体に風が纏われてその身を包むと同時にその姿をかき消していた。







これが『真なる死神』と『錬剣師』の出会いと二人が友誼を結ぶきっかけとなった出来事である。

そして一時の別れとなるが、二人の力を歴史が真に欲するのはこれより数年後となる。







里に帰った志貴はいの一番に自宅に戻ったそこには予想していた通り

「・・・(むぅーーー)」

「・・・(むすーーー)」

「・・・(むかむかむか)」

ひたすらお冠となった翡翠・琥珀・レンが冷たい視線を志貴に浴びせ掛けて、黄理と真姫はそれを面白げに見つめていた。

「えっと・・・三人とも・・・」

「「志貴ちゃんの馬鹿・・・」」

「・・・(つーーーん)」

志貴の声にも揃ってそっぽを向いてしまった。

「えっと・・・レン・・・お土産にケーキ買ってきたんだけど・・・」

「・・・!!」

志貴の言葉にレンの耳がぴくんと反応した。

いや、身体が既に反応してケーキをただひたすら凝視している。

「翡翠と琥珀も食べる?」

二人もそれに反応したが

「・・・い、良いもん」

「わ、私も翡翠ちゃんもケーキ好きじゃないし・・・」

明らかに無理をした口調でそう言う。

「そう?二人が好きそうなケーキも買ってきたんだけど・・・」

その言葉に更に動揺した双子は遂に屈服した。

「そ、そう・・・しょうがないなあ・・・」

「う、うん・・・じゃあ食べようか?」

「そうよかった」

その会話が一段楽した時、

「志貴、少し話しがある。ちょっと来い」

黄理が話しかけてきた。

「???判りました。じゃあ皆いろんな種類あるから好きなの食べていて良いから」

そう言って志貴は黄理と共に当主の間に向かう。

「さて志貴・・・」

「はい、御館様」

部屋に入ると親子でなく当主と一族の者に立場が変わる。

「実はお前に頼みたい事がある」

「なんでしょうか?」

そこで黄理は一つ息を吐くとこう言った。

「来年の春から高校に通え」

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